1日2021年7月
コロナワクチンの副反応(その2)
厚生労働省が今年2月以降に接種を受けた医療従事者2万人を
対象に実施した調査結果の中間報告(6月7日版)では、
1回目よりも2回目の方が、発熱や全身倦怠感、
頭痛の症状が出現した人の割合が高かったです。
また、副反応の発現頻度は若年者や女性で高く、
高齢者では低い傾向でした。
1回目に37.5度以上の発熱は3.3%でしたが、
2回目は38.1%と高率でした。
発熱は翌日の発症が多く、接種3日目までに解熱しました。
全身倦怠感は69%(1回目23%)、頭痛は54%(1回目21%)と
いずれも1回目より大幅に高く、
どの症状も接種当日と翌日に多く発症しました。
一方、接種部位の痛みは1回目、
2回目とも90%強で同頻度でした。
65歳以上の高齢者では発熱9%、全身倦怠感38%、
頭痛21%と、他の年代と比べてかなり低率でした。
副反応の強さは、女性の方が男性よりも強く、
頭痛は男性が37%に対して女性は62%、
発熱は男性が30%に対して女性は42%と高い結果です。
2回目の接種後に体調などを理由に勤務を
休まざるを得なかった人は6%にみられました。
ワクチン接種後の感染は7名(0.04%)、
うち3名が2回目接種後でした。
これまでの報告でも1回目接種後の感染発覚は、
多くが接種日より以前か接種直後の感染であろうと推測されており、
ワクチンに効果がなかったという解釈はされていません。
接種後の感染を大々的に取り上げる報道がありますが、
少なくとも国内ではワクチンの発症予防効果は99.96%と、
言われている以上のとても高い結果が得られています。
皆様が心配されている副反応について、
5月30日までに集計された約1,306万回接種中、
医療機関より報告された副反応疑いのうち
アナフィラキシーが1,263件(0.0097%、つまり10340人に1人)で、
死亡報告数は関連があるかどうかが不明の
ものも含め122人(0.00093%、つまり10万7千人に1人)です。
コロナワクチンは、他のワクチンと比べても
かなり安全であることがわかっています。
私どもが何度かお手伝いした市内の接種会場でも、
毎回数百名の高齢者へ無事に何事もなく接種が完了しています。
ワクチン接種に対し不安をあおる様な情報合戦から
正しい情報を選択するのはなかなか困難かもしれませんが、
ぜひ皆様に安心して接種を受けていただきたい、そう願います。
22日2021年6月
コロナワクチンの副反応(その1)
神戸市では現在、医師会を挙げて
新型コロナワクチン接種に取り組んでおり、
7月には高齢者の接種が完了できる見込みと聞いています。
当院の診療態勢では通常診療と平行して行うことが難しいため、
当院でのワクチン個別接種は行っていませんが、
市内の接種会場に出務することで皆様の接種推進に協力しています。
いよいよ 65歳未満の一般接種も開始される今、
改めてワクチン接種による副反応への対処などお伝えできればと思います。
当院スタッフはありがたいことに5月初旬に1回目、
下旬に2回目の接種を終了しました。
医療の現場では患者様のお身体に触れることは勿論、
お耳元で大きな声を発すること、
ご病気によってはマスクを外していただいての診療も必要です。
また当院にはご高齢の患者様が
多く通院いただいていることから自分たちが感染を広げ、
クラスターを起こすようなことは
絶対にあってはならないとの緊張感が続いています。
しかしながら、2回のワクチン接種を終えた今、
日々の診療における安心感はとても大きいと実感しています。
一方、日々の診察で患者さんから接種の副反応に
不安を感じて二の足を踏んでいるとの声を多く聞きます。
ぜひ皆様にも不安なく接種を前向きに考えていただきたいと考え、
当院スタッフが経験した新型コロナワクチンの副反応について、
小さなレポートをお届けします。
当院スタッフは全員で8名、年齢30代から70代です。
接種に強い不安を感じ、申し込みを期限ギリギリまで迷っていた者もいましたが、
スタッフ間での話し合いや正しい情報・知識の共有を経て、
全員が納得の上で申し込みました。
クラスター予防の観点から、
全員が接種を受けられたのは幸いだったと思います。
2回目のワクチン接種の翌日は発熱でやむなく
欠勤になってしまう人が多いとの情報を聞いていましたので、
各部署でシフトを組み、2週にわたって交代で接種を受けました。
1回目は大きな不具合なく、勤務にも支障なく終えられました。
スタッフ8名中の7名に注射した周囲の腕の痛みが1~2日程度あったほか、
倦怠感を2名に認めたのみで、副反応は予想の範囲内でした。
腕の痛みも程度は軽く、発熱した者はなかったです。
3週後に皆がそれぞれのスケジュールで2回目の接種を受けました。
予想されたとおり、接種翌日から半日程度、長い者で丸一日、
37度を超える発熱を6名(75%)が経験しました。
接種当日からの発熱はありませんでした。
うち37.5度を超えたのは3名で、38度を超える発熱はありませんでした。
腕の痛みは8名(100%)、うち7名が接種当日からでした。
倦怠感は7名(88%、当日から1名、翌日から6名)、
頭痛は翌日から3名(38%)でした。
また3名(38%)に腰から下半身が重く感じる症状がありました。
70歳代の2名には発熱はありませんでした。
やはり副反応の出方には年代による差があると実感します。
インフルエンザに伴う発熱や頭痛には
アセトアミノフェン(商品名カロナール)での対処が望まれますが、
今回のワクチン接種後の発熱にも、厚生労働省、
アメリカ疾病対策センター(CDC)ともに
NSAIDsも含む解熱鎮痛剤の使用に問題はないとされています。
飲み慣れた薬がお手元にある様でしたらそちらをお使い頂いて問題ないと思います。
また、解熱鎮痛剤がワクチンの効果を低下させるという不安を感じる方がおられますが、
当院での発熱例をみても服薬は1日程度で済むと思われますので、
ご心配は不要と考えます。
ただし、接種に備えて予防的に解熱鎮痛剤を服薬されることは推奨されていません。
発熱と倦怠感は頻度が高いため、
2回目接種の翌日は仕事を休んで1日寝ておけるような予定で
備えるのが適切かと感じています(その2に続く)。
20日2021年5月
コロナの医療と通常の医療
コロナ禍では感染者の直接的な健康被害は甚大ですが、
非感染者であっても間接的な健康被害はこれまた深刻で、
その実態はむしろこれから明らかになってくると思われます。
例えば巣ごもりによる運動不足によって全世代で肥満が増え、
それが将来的な高血圧や高脂血症などの慢性疾患に繋がったり、
高齢者がデイサービスやデイケアへ参加できないことで、
認知症の増加やロコモ
(運動器症候群:運動器の障害により要介護になりやすい状態)
に繋がることが挙げられると思います。
日本肺癌学会が2020年の肺がんの新規患者数を調査した結果、
前年より6.6%減少したと発表しました。
コロナ禍による受診控えや検診控えが影響しているとみられ、
全国で8600人の診断が遅れ、治療の機会を逃したと推定されています。
このことは早くも明らかとなった、とても深刻な健康被害の例と思います。
がんの診断の遅れ、特にその中でも進行が速い肺がんで発見が遅れれば、
治せたはずのがんが治せなくなってしまうことや、
すでに広く全身へ転移してしまっていた、ということになってしまいます。
このような診断の遅れが大腸がんや胃がん、
乳がんなど他のがんでも同時に起こっているとすれば、
最終的には助かるはずの多くの命が失われるのではないかとぞっとします。
なぜコロナの病床が増えないのか、とテレビでよく議論されています。
コロナの医療を優先するのか、通常の医療を続けるのか、
この選択は簡単ではありませんし、正解はありません。
先に述べた慢性疾患や認知症、ロコモの増加やがん診断の遅れといった、
コロナによる間接的な健康被害がこれ以上悪化しないように、
コロナの医療と通常の医療を上手く両立する努力が求められます。
テレビではそのような議論はほとんどされていないように思います。
通常の医療を何とか守らなければならない、
という考え方への理解がもう少し広がればなあ、と感じています。
1日2021年2月
頭を打った時
頭部外傷には様々な原因があり、
その外力の程度や打撲部位・方向により頭蓋内に多彩な病変が発生します。
外傷の原因として転倒や転落・事故・スポーツ・災害等が挙げられ、
加わった外力の強さと方向によっては首を中心に回転力が加わり、
頭蓋骨と脳とのずれ生じるため打撲部位と同時に反対側にも脳損傷をきたします。
更に、回転力で脳幹と大脳表面とのずれをきたすと複雑な損傷をきたします。
本人が受傷原因を覚えていないことも多く、
目撃者に聞かないと分からないこともしばしばあります。
救助される人に注意していただきたいことは、
受傷後に意識消失やてんかん症状がある時にはその程度と時間経過が予後に影響しますので、
時間経過の記録とともに通報が必要です。
また、意識消失やてんかん症状をきたした場合には
救急搬送依頼と同時に受傷者の口を下にした側臥位が望まれます。
たとえ口や鼻から血が出ていても指を入れたりハンカチ等で押さえないことです。
むやみに起こしたり顔をたたいたりもしないでください。
受傷直後に自分で起き上がることができれば一安心です。
ただし、外傷性健忘をきたしていることもありますので直立姿勢や
上肢の水平位保持・片足立ち・屈伸運動を繰り返すことが可能かを確認してください。
本人が普通に動作・会話ができるときでも自覚症状が強ければ受診を勧めて下さい。
受傷原因には心臓発作やてんかん発作、自律神経調節障害に伴う失神発作もありますので、
仮に短時間で回復されたとしても必ず精密検査が必要です。
受傷者は一見意識清明と見えていても実はそうでないときもあります。
まずは声掛けで生年月日や当日の日付を確認してください。
外傷性健忘・脳震盪といえる症状の場合、一見動作は普通にできているけれど、
後で聞くと何も覚えていないこともよくあります。
ラグビーや柔道競技ではスポーツ医学の進歩と共にしばらくの安静が必要としています。
外傷後、打撲部位の痛みだけでおさまり、
日常行動ができる様であれば自宅で経過を見られるのが良いと考えられます。
しかしながら、時間経過とともに受傷部位以外に痛みが広がり嘔吐も伴う様なときには受診してください。
また、受傷後元気にしていても次の6つのことがあれば受診してください。
①吐き気や嘔吐が始まる
②ボンヤリしてうつろな表情や眠りがちになる
③子供などで多いですが顔面蒼白になってぐったりして元気がなくなる、
ただし機嫌よく遊んで食べることができればむやみに受診する必要はありません
④手足のしびれと動作が鈍くなる
⑤高熱やけいれん発がを生じる
⑥視力低下や物が二重に見える
なお特に、中高年の方では、軽微な外傷であったとしても、
受傷後1~4ケ月間に上記の症状が出るときには検査受診が必要です。
また、いずれにしても受傷時元気であっても2~3日は充分に注意が必要です。
25日2020年6月
AI画像診断で患者さんが受けるメリット
近年複数の施設で相次いだ画像検査の見落とし問題について、
その多くは画像診断レポートの確認し忘れが原因と報道されています。
患者さんの主治医にあたる外科医や内科医は、
ご自分の専門領域である各臓器の所見についてご自身で読影・確認されます。
しかしながら、専門外の臓器や撮影範囲に偶然写りこんできた異常については、
限られた診察時間の中では確認不足となる可能性も残ります。
画像診断レポートは放射線診断専門医により作成され、
その確認不足を補う役割がありますが、
それでも現在の1検査あたり300枚超も撮影される全ての画像を
隅々までチェックする必要があります。
近年、画像診断の領域は画質の向上など目覚ましい発展を遂げており、
画像診断医の負担は増す一方です。
AI画像診断支援システムは異常所見の候補部位を自動検出し、
画像上にマークして示してくれることで見落としを防ぐだけでなく、
データを三次元的に解析して一断面からの読影ではわからない異常も知らせてくれます。
脳動脈瘤の診断にはMRAngiography (MRA) を用い、
それを立体的に再構成した三次元画像、
最大値投影法(Maximum Intensity Projection: MIP)画像によって細かな異常も検知します。
未破裂動脈瘤の候補をAIが自動検出した結果も踏まえ、
専門医が吟味して最終診断とすることで、
次の治療や経過観察の判断を素早くかつ正確に行うことが可能です。
当院では脳ドック・一般外来診療での検査ともに検査当日に専門医が患者様に直接結果説明を行います。
撮影されたばかりの画像を患者さんへお見せして異常所見について説明し、
治療や経過観察の計画について相談することになります。
即時の結果説明を行うため長時間かけて読影することは難しいという制約を伴いますが、
本システムによりスピーディーかつ正確な結果説明が今まで以上に確かなものになると考えます。